TopcoderとHarvard大学は、2017年に放射線治療の際に治療領域を確定する肺腫瘍領域のセグメンテーション(抽出)に於いて、放射線がん治療専門医の正確性と同等の性能を実現するAIソリューションを、Crowdイノベーション( Topcoderを活用したオープンイノベーション)を活用して短期間で開発する事を目的とした検証プロジェクトを実施しました。そのプロジェクトに於いて、Topcoderのアルゴリズム開発コンテストとAIテクノロジーの組み合わせによって、高度にトレーニングを積んだ放射線技師の治療に於ける最も重要なスキルをコピーするアルゴリズムを、非常に短期間の内に開発する事が可能なことが確認されました。
下記に本プロジェクトの詳細を伝えるJAMA Oncologyのリサーチペーパーへのリンクと、TopcoderのGlobal Director, Data Science Analytics and AIであるAndy LaMoraのTopcoder公式ブログ記事の翻訳版を掲載します。
目次
JAMA Oncologyの公式リサーチペーパー:
※ JAMA:米国医師会によって発行される医学雑誌。世界で最も読まれる医学雑誌の一つとされる。
Harvard大学とTopcoder、がん治療の世界に破壊的イノベーションをもたらす
By Andy LaMora in Crowdsourcing Success
Topcoderコミュニティーは、2006年にJeff Howeによって『クラウドソーシング』という用語が作られる以前より、複雑なデータ分析の課題に取り組んでいました (訳注:「クラウドソーシング」という言葉は、この年にWired Magazineの記者であったJeff Howeによって初めて使われました)。データサイエンティスト、及びコンピューターサイエンティストのコミュニティであるTopcoderではその開設以来、世界中の人々の生活の質の向上や、大型インフラビジネスに於けるリスク判定、または広大な宇宙の不可思議の探索を目的としたプロジェクトを遂行してきました。これらのプロジェクトは全て共通して、真に複雑な問題に取り組む為に、Topcoderコミュニティのモチベーションに溢れ、かつ非常にスキルの高いデータサイエンティストを活用してきました。
米国における第二の主要な死因はがんです。様々な種類のがんの中で、肺がんは毎年15万人以上の命を奪っています。2017年に、TopcoderはHarvard大学と協力し、クラウドソーシングを活用して行われた、医療分野の最も野心的な取り組みとも言えるプロジェクトを実施しました。このプロジェクトは患者の肺のがん性腫瘍の治療を目的とする自動描出アルゴリズムの開発とテストを、Topcoderを活用して実施するというものでした。
“Harvard Tumor Hunt(Harvard腫瘍捜索)”プロジェクト:背景
放射線がん治療専門医が手作業で行う腫瘍部分の描出 − 腫瘍の治療領域の境界を判定し、描画すること − は時間を要し、また複雑な作業です。乗り越えるべき課題は様々にありますが、がん治療専門医が行う腫瘍部分の描出には、医師それぞれの持つ先入観や、医師間の解釈の不一致といった問題が発生する可能性があります。また、放射線治療を行う際には、治療箇所に対して非常に精密で正確なコントロールを行わなければならず、腫瘍部分抽出は特に重要性の高い作業と言えます。
“Harvard Tumor Hunt”プロジェクトは、Topcoderで実施した3回のコンテストによって、平均的な放射線技師と同等の精度を保持しつつも、診断の速さと一貫性の2点に於いて放射線技師の数値を上回る自動腫瘍描出アルゴリズムの開発に成功しました。
“Harvard Tumor Hunt”プロジェクト:コンテストの活用
Harvard Tumor HuntプロジェクトはTopcoderの『マラソンマッチ・コンテスト』のシステムを利用しました。マラソンマッチ・コンテストは、テクノロジーを活用して複雑な問題の解決を試みる際に利用される、Topcoderの主要なコンテストです。このプロジェクトは3つのステージに分けて実施されました。その各ステージでコンテスト参加者はコードを書き、データを計算し、その結果を数週間にわたってオンラインで提出し続けました。提出された各コードおよび計算データはほぼリアルタイムに採点され、その成果物のスコア順位がTopcoderのコンテスト順位表に表示されます。このシステムにより、他の参加者成果物のパフォーマンスや自分の順位をリアルタイムに知ることができ、更に良い成果物を開発するモチベーションが生まれるのです。
“Harvard Tumor Hunt”プロジェクト:ステージ1、ステージ2
第1ステージでは、高度なスキルを持つ放射線がん治療専門医と同等の正確な自動描出アルゴリズムを作成することがスコープとされました。この段階では、さまざまな国籍(アメリカ、ブルガリア、ポーランド、ブラジル等)の31人のTopcoderメンバーが参加し、大規模に利用できる現実的で実用的なアルゴリズムソリューションが作成されました。
第2ステージでは、第1ステージで作成したアルゴリズムを放射線がん治療専門医のフィードバックを元に再学習させ、専門家が犯さないような間違いを回避することを目的として、11人のメンバーが競い合いました。最後の第3ステージでは5人の選ばれたメンバーが、医師と専門家からの最終的なフィードバックをアルゴリズムに実装する、非公開のプライベートタスクとして実施されました。
このコンテストで支払われた賞金は合計50,000ドルであり、Harvard Catalyst(訳注:Harvard大学の臨床科学・橋渡しの研究所) とLISH (Laboratory for Innovation Science at Harvard)(訳注:ハーバード大学のイノベーション科学研究所)を介してコンテストの各参加者の最終スコアに応じた分配が為されました。
“Harvard Tumor Hunt”プロジェクト:コンテストシリーズの結果
Harvard Tumor HuntプロジェクトはTopcoderコミュニティーの最も優れたデータサイエンティスト31人と共に、より多くの命を救うことにつながる実用的なソリューションを開発し、がん治療とがん識別の分野に優れた処置法をもたらしました。
Topcoderに於ける費用対効果の高いクラウドソーシング・コンテストは、企業や大学、もしくは非営利団体が、現在の世界や人々の生活にインパクトを与える、目に見える成果の獲得を助けるものです。がん性腫瘍の描出はがん治療プロセスにおいて重要な役割を担っています。がん性腫瘍のサイズと範囲を正確に検出することにより、放射線科医はがん細胞に対する治療の影響を最大化し、非がん性組織に対する影響を最小限に抑えることができます。
今回のコンテストシリーズでがん性腫瘍の迅速かつ自動的な描出が可能なアルゴリズムが開発されました。そして更に良いことに、そのアルゴリズムの正確性は専門家の診断と同等のレベルを実現しているのです。
TopcoderとHarvard大学:継続的な成功
Harvard Tumor Huntプロジェクトは、Harvard大学とTopcoderの共同パートナーシップから生まれた数多くのプロジェクトの1つです。計算生物学から精密医療・個別化医療まで、Harvard大学とTopcoderは医学、生物学、そしてテクノロジーの分野で、絶え間ない進歩と成功の歴史を重ねてきました。Harvard大学のCrowd Innovation Labとのパートナーシップは、クラウドソーシングの最も洗練され、広範囲にわたる成功を促進する取り組みであり続けています。
この”Crowd”によってもたらされた画期的な進歩についての更なる情報については、下記のリンクをご参照下さい。
・JAMA Oncologyの公式リサーチペーパー
・リサーチペーパーの執筆者の一人であり、Harvard Business SchoolにてInnovation Scienceを研究するKarim R. Lakhani教授による本プロジェクトの解説
Harvard Business School: Open Innovation Contestants Build AI-Based Cancer Tool
・腫瘍描出画像の比較による既存ソリューションとの比較
ZDNet Coverage: Researchers find crowdsourcing, AI go together in battle vs. lung cancer
・その他のプロジェクト紹介記事
Docwire News: Crowd Sourced AI Can Detect Cancer in Patients
Fortune Magazine: Eye on A.I.— How to Fix Artificial Intelligence’s Diversity Crisis