目次
はじめに
デジタル・ネイティブなユーザーの台頭や、リアルでの顧客接点が作りづらい状況のなか、オンライン(デジタル)で顧客接点を創造し、既存サービスでの顧客ロイヤリティの向上に取り組む企業が増えています。また、DXレポート2では、顧客接点のデジタル化がDXのファーストステップとしても記載されています。これらの観点で、顧客接点をつくり、顧客体験を向上していくことが求められています(参考ブログ記事:こちら)。
今回の記事では、顧客体験(Customer Experience)を向上するための基礎知識として、グッドマンの法則を提唱したジョン・グッドマン氏の著書である『顧客体験の教科書』で紹介されている、顧客体験を創造するために必要な考慮ポイントを解説いたします。
Customer Experience 3.0とは?
日本語版ではより親しみやすく、『顧客体験の教科書』となっていますが、本書の原書版のタイトルは、”Customer Experience 3.0: High-Profit Strategies in the Age of Techno Service”です。
原書のタイトルにある、Customer Experience 3.0とは何なのでしょうか?
はじめにで述べた通り、ジョン・グッドマン氏はグッドマンの法則を提唱した方です。もともとは、米国企業の苦情処理の実態調査を受託し、その調査報告で、米国の大手企業を中心にフリーダイアルの導入と合わせて顧客窓口の設置を促しました。これがいわゆる「グッドマンの法則」と呼ばれており、クレーム(苦情)処理と再購入決定率の間に相関関係があることを示した法則のことです。これが1970年後半〜1980年のことです。
つまり、CX1.0は、「顧客の声に耳を傾けよ」という時代で、この時代から品質管理やTQM(総合的品質管理活動)などがトピックとして挙げられるようになりました。
その後、1990年代後半以降はインターネットが徐々に利用され、コンピュータを使った業務が浸透してくると、CRM(顧客関係管理)がブームとなりました。特に大手パソコンメーカーのデルの「サポート第一次解決」などはこのCRMによるもので、電話窓口による対応やマーケティングとサービスの協業が競争力を左右すると言われた時代です。これがCX2.0の時代です。
さらにときは進み、機器のセンサーデータやソーシャルネットワークなど様々なデータのチャネルが実現できるようになったことにより、高度に顧客情報を獲得することができるようになってきた2010年代以降がCX3.0と呼ばれ、顧客満足度や顧客ロイヤリティを織り込んでいくことが積極的に考えられる時代になりました。既存顧客のカスタマーベースを拡大することと、安定的な収益確保のためにカスタマーサービスという位置付けがより戦略的になってきた時代です。また、受け身でのサポートではなく、予見的なサービス提供などプロアクティブな動きが求められる時代でもあります。
長々と解説してしまいましたが、デジタル、オンラインが主流になってきたことにより、徐々に「顧客体験」の概念が広がってきたことがわかるかと思います。
顧客の声は、氷山の一角
Customer Experience3.0に従うにつれて、予見的なサービス提供や、カスタマーサービスとマーケティングが連動したサービス提供といった高度なことが求められています。それがなぜかを一言で現すものが、以下の図です。
顧客からクレームとして申し立てられたトラブルよりも、企業の耳に入らないトラブルのほうが5倍のダメージがある
積極的に顧客に苦情を言ってもらう窓口を作り、適切に顧客との関係性を構築すべきことがこのデータからわかるかと思います。CX2.0からCX3.0への大きなジャンプは、受け身で情報を取得するだけではなく、顧客/ユーザーにストレスなく、顧客/ユーザーがどのような不満を持つ可能性があるかを見つけ出すことにあります。
顧客が苦情を申し立てない理由としは以下のようなことが挙げられますが、読者のみなさんも何らかのサービスや製品を利用していて不満に思ったとしても、以下のような考えから問い合わせをするのを諦めてしまうことがよくあるのではないでしょうか。
- 苦情を申し立てることが煩わしい
- そのまま不具合のあるものを使うほうが楽と考える
- 過去の経験から苦情を言っても仕方がないとあきらめている
- 企業の担当者からの報復を恐れている
- どこへ苦情を申し立てていいかがわからない
CXを強化する鍵となる4つの取組み
それでは、顧客体験=CXをCX3.0のレベル感へ強化していくにはどうしたら良いのでしょうか?『顧客体験の教科書』では、4つの取り組みを提示しています。
- CXの起点から完了までをマネジメントする
DIRFT(Do It Right First Time)、事前期待を正しく設定するために、プロダクト・マーケティングは事前準備する - 投資対効果を検証する
CXを強化するための投資を得る/予算を獲得するために必要
改善のゴールを明確にするためにも必要 - 能動的なサービス
顧客からのクレームや問い合わせを促す仕組み - テクノロジーの活用
プロセスマップをベースとしてテクノロジーを採用する
上記4つの取り組みのうち、一番目に提示されている、「CXの起点から完了までをマネジメントする」については、以下の4つの要素を意識して設計することが提唱されています。
CX強化に向けた継続的改善の4つの要素
①物事は最初に正しく実行する(DIRFT)
一見分かりにくい用語ですが、顧客へのサービス提供の最初のポイントであるマーケティングメッセージや営業からの説明などをしっかりと設計するなどのことであり、以下のようにまとめられます。
1.顧客の事前期待を適切に設定する
2.サービス担当者らが製品を届ける際にも期待値を再設定する
3.外的要因や顧客のステータス変化への対応
これが重要であることを象徴する調査結果として、”顧客が騙されたと感じた不満は、顧客サービス担当者のミスや製品欠陥に対する不満の2〜4倍もロイヤルティへのダメージが大きいという調査結果がある”ーp26 ということもあげられております。
また、サービス利用中に何らかの外的要因などにより、サービス体系が大きく変わってしまい、顧客に不利益をもたらすケースもあります。このような変化に対応することが、顧客満足度を高める1つの要因でもあります。
わかりやすい例として、本書で紹介されていたのは、ティンモバイルのビジネスモデルです。通常通信会社は選んだプランの上限を超えた場合にはそのまま利用した分だけ通信量が加算される、などのことが行われています。一方で、ティンモバイルの場合には、毎月の使用量に応じて高いプラン、安いプランが自動的に適用されるようになっており、予想より多く使っても、過大な割増料金を請求するのではなく、一段階上のプランに変更されるだけです。これにより、自動的に顧客のニーズに最適化された料金プランが適用され、顧客に対して不快な出来事を一切作らないという体験を作っています。
②顧客が利用しやすいチャネルとサービスへの容易なアクセス
冒頭で述べた通り、顧客はサービス提供会社にクレームをあげたりすることが面倒になってしまうことが多く、そのまま製品が使われることなく、追加の購入もなくなってしまうということがあります。このようなことがないように、以下のような取り組みをすることが提唱されています。
- 心理的な障壁をなくす
- サービスの需要量を予測する
- 十分なキャパシティを備える
それぞれを詳細には説明しませんが、例えば「わたしたちに知らされたトラブルしか解決できません!」というステッカーをパッケージに貼ることで、「問い合わせを気軽にしてもよいのか」という感覚をもってもらったりすることができます。
また、サービスの需要量に関しては、提供者側の都合で土日の対応がない、などのことがありますが、例えば消費財の場合には土日の空き時間に問い合わせをしたいという顧客がほとんどでしょうから、そのような顧客に対応できるようにサービスを設計することが大切です。
ニーズの違いや好みの違いによって顧客クラスターを作り、そのクラスター毎にサービスレベルの設定や対応内容を決めるなどのことも重要であり、リソースマネジメントを適切に行うための各種システムを使うことも必要になってきます。昨今ではAI(例えばチャットボット)での一次回答などで人間系のリソースに余裕をもたせるなどの対処策もあります。
③すべてのチャネルを通して提供する顧客へのサービス
チャネルをしっかり準備したら、顧客へのサービス提供そのものの設計に入ります。ここでは、5つのゴールを設定し進めることが提示されています。
- 最初のコンタクトで問題を解決する
- 適切なタイミングでクロスセルを実施する
- 顧客教育を通じて、不必要なコンタクトを回避する
- 適切な状況で、顧客とエモーショナルコネクションを作り、付加価値を高める
- VOCのための情報収集を行う ※VOC:Voice of Customer(顧客の声)
例えば、レストランの予約や行列待ち用のアプリを提供している食好きのためのソーシャル・ネットワーキングサービス、「ノッシュ」の事例では、そもそもアプリケーション自体が自動的に予約や行列待ちができるように設計されています。ノッシュの更に秀でている点は、過去の来店で長くまたされた顧客には店側からお詫びのメールを入れる、次回は優先的に席を案内する、などのことが可能な点です。これにより、顧客とのエモーショナルコネクションを作ることが可能となり、付加価値を高めていくことが可能です。
上記ゴールを実現するための要素として、サービスニーズの予測、受け入れ、回答、フォローアップ、履歴、評価が挙げられています。主にCRM(顧客関係管理)システムを中核にすることで、顧客の属性からサービスニーズを予測したり、受け入れ時のスピーディな顧客理解などを促すことが可能です。
④効果的なVOCシステムによる傾聴と学習
①から③までを設計して、実行したら、これらの活動へフィードバックをするための学習プロセスを構築していくことが必要です。ここでの主な目的は、CXの全体像を浮き彫りにすることですが、重要な要素として以下が挙げられます。
- コンタクトすることのない顧客のCXも理解する
- 改善アクションのために、組織横断的に見渡してアクションの優先度を決める
- 最適な部門を任命し、効果と財務的影響を測定する
つまり、効果的なVOCシステムの構築には、アンケート、カスタマー・タッチポイント、顧客に影響を及ぼしている業務上発生している出来事(予約のキャンセル、在庫切れ、延滞料、配送遅れなど)をキャプチャする必要があり、それらをベースに①〜③までの活動へ還元していくことが求められています。
まとめ
今回の記事では、CX3.0とはというご紹介から、『顧客体験の教科書』で紹介されているポイントを解説いたしました。実際にはここに書ききれないような事例や内容が詰まっていますので、顧客体験の向上を目指されている方は、ぜひご一読いただくと良いかと思います。
かなり広範囲のことをしなければならないですが、効果的なポイントとして、少しずつできることから適用していくことが重要ではないかと感じました。
また、テクノロジーは様々あるものの、一旦はCRMを中核とすることが重要そうです。それ以外のテクノロジー要素については、適用のステップとともに次回の記事でご紹介していきたいと思います。
デジタルサービス開発のポイント&事例の紹介資料をご確認ください!
顧客向けのサービス開発をアジャイル開発の手法を活用してご支援しています。顧客向けのデジタルサービスを開発する上でのポイントとあわせて、事例をご紹介している資料は以下からダウンロードいただけます。
『デジタル顧客接点トータルサービス』のご紹介資料を含めたウェビナー資料(事例も掲載しています)以下のフォームからご確認いただけます。(フォームが表示されない場合には、こちらからご確認ください)
資料ダウンロードは以下のフォームにご記入ください。