目次
はじめに
こんにちは!TC3 AIチームの梅本です。
僕は普段AIアーキテクトとして最先端のAI領域での製品導入や新規事業開発といった技術支援をお客様へ提供しております。業務では様々なお客様からAIプロジェクトに関してご相談を頂いており、例えば内部のチームで進めていたがなかなか製品導入まで出来ないとか、あるAIベンダーに依頼していたが必要以上にプロジェクトが大きくなってしまったりスピード感がないとご相談いただきます。
そこで今回は多くのAIプロジェクトを進めてきた中で失敗しないために大切だと感じたポイントを解説していきたいと思います。
目的と手段を混同せずにビジネスインパクトを明らかにしよう
まず最も根本的なポイントとして、AI導入の目的を明確にすることが挙げられます。AIプロジェクトを進める際にAIの「可能性」に熱中しすぎてしまい、具体的なビジネスインパクトを考慮せずにプロジェクトを推進してしまうことがあります。ですが、AIを導入する最終的な目的はビジネスの価値を高めることです。製品改善、サービス品質の向上、業務効率化、コスト削減など、企業におけるAIの活用目的は多岐にわたるため、これらのインパクトを具体的に定量化し、目標設定することが不可欠で最も大切なことです。
例えばある会社の工場でバイトの方が製品の目視チェックをしており、これをAIで置き換えるケースを考えてみます。時給1000円で複数人が交代制で24時間チェックしており、同時に1人のみ稼働していると仮定します。この場合は1日で24,000円、1月で約72万円、1年で約864万円となります。このような目視チェックプロセスにAIを導入するべきでしょうか?学習用のデータ収集、AIモデルの性能検証、カメラなどの動作用の設備購入、AIを動作させるクラウドインスタンス、AIチェックシステムの継続的な改善、など自動化のためにはいくつものプロセスや設備投資が必要になります。これが例えば1000万で作れたとしても数年間継続的に使ってやっと価値が現れることになります。しかもAI分野は発展が早いのでより良いモデルに切り替えようとして追加費用が発生するかもしれません。このようなことを考えるとこのケースではあまりAIを導入してもインパクトがないかもしれません。しかし、例えばこの目視チェックを同時に10名で行っているのであれば年間約8640万円かかっていることになるので、1000万で作れるのであれば十分に取り組む価値があります。
先ほどの例は最も簡単な例でしょう。AI導入がそのままコストに紐づくのでインパクトの計算もしやすくGo/No goの判断が容易です。難しいケースとしては自社プロダクトや社内システムへAI導入をするなどの直接コストに紐づかないケースです。前者であればユーザーヒアリング等をして明らかになった課題に対するプロダクトの新機能の目玉として導入する、後者であれば社内でどれぐらい無駄があるかを測定し効率化をすることでどれだけコストが浮くのかという定量的な試算をする、などのアクションによって判断をしていくことになります。
このように事前にビジネスインパクトを明らかにすることでAIを導入したのにうまくいかない!ということは大幅に減らすことが可能です。
AIプロジェクトが堅実なものか、先端的なものかを明らかにしよう
AIプロジェクトの性質を理解することは、適切な資源配分や期待値の設定において欠かせません。AIの適用領域は大きく分けて二つに分類されます。一つは既に他社事例や研究報告があるような「堅実なもの」、もう一つは全く事例がない「先端的なもの」です。
堅実なプロジェクトは、比較的成熟している技術や既に実績のあるアプリケーションに焦点を当てたものです。こうしたプロジェクトはリスクが低く、成功の確率が高い傾向にあります。例えば、テキストデータの自動分類や画像内のオブジェクト認識は、研究機関や先行企業からの豊富な事例が存在し、どのように取り組むべきかについての確立されたノウハウもあります。このようなプロジェクトには、ベストプラクティスや標準化された手法を適用することが可能であり、実現性が高いのでクイックに進められ見通しも立てやすいです。
一方で、先端的なプロジェクトは新しい技術や試みに挑戦するものであり、成功すれば大きな利益やインパクトをもたらすものになります。こうしたプロジェクトは未踏の領域に足を踏み入れ、市場や技術的な先駆者となる可能性がありますが、その分リスクも大きくなります。新技術の研究開発、未知の問題への応用、また市場の初期段階での製品化などが含まれます。この場合、技術検証の結果に応じて柔軟に計画を変えていく必要があるので、すぐに直接的な成果を求めないという社内的な理解がとても大切になってきます。
特に問題となるのが先端的なプロジェクトを堅実なプロジェクトとしてステークホルダーが認識してしまうパターンです。最近のAIの大きなニュース等を見ていると、たとえ先端的なプロジェクトであっても今のAIならできてしまうだろう、と思ってしまいがちです。その結果、時間がかかってしまったり精度が出ないことが分かってから大きな方針転換などが必要になってしまいます。これを避けるためには、現実的な目線でAIプロジェクトの可能性を分析することです。その後、ビジネス戦略やリスク許容度、投資額を考慮に入れることが求められます。重要なのは、どちらの路線を取るにせよ、組織の目標に合致することと、必要なリソースと期待値を正確に把握し、ステークホルダーに適切に伝えることです。
開発プロセスでは結果に応じて柔軟に対応できるようにしよう
一般的なIT業界でのシステム開発プロジェクトとAI開発プロジェクトは大きく異なる点がいくつかあります。個人的に一番大きいのは、システム開発では事前に開発のスケジュールを組んで開発をすることが出来ますが、AI開発プロジェクトでは基本的には難しいということです。開発方法には事前にきちっとスケジュールを計画するウォーターフォール型と、短期間の開発を繰り返すアジャイル型がありますが、比較的スケジュール化が容易なシステム開発ですら想定外の要因によってウォーターフォール型の問題点が指摘されUSでの開発ではアジャイル型を採用することが多いです。AI開発ではシステム開発以上に想定外の要因が発生することが多いです。例えば、事前に想定したデータだけでは精度が目標値に達しないのでデータ収集からやり直す、推論時間が想定以上にかかってしまい製品導入が出来ないのでモデルのアーキテクチャを改善して変化を見る、などです。
AIプロジェクトには堅実なものと先端的なものがあると説明しましたが、堅実なプロジェクトであっても一般的なシステム開発よりも不確実性は高いです。これを柔軟に進めていくためには小規模なPoCを事前に実施する、アジャイルに進めていく、などのプロセスが必要になります。
成果物だけではなく研究開発ノウハウを大切にしよう
AIプロジェクトを進める際にどうしても最終的な成果物に目がいきがちです。どのようなモデルを使っているのか、精度や速度はどれくらいなのか、全体的な動作は十分かといった点です。もちろんその部分も大切なのですが、それと同じぐらい重要なのがその成果物に至るまでの試行錯誤の部分です。なぜなら、ほぼ全てのAIプロジェクトは単発で終わらないことが多いため、運用・保守といった作業や機能改善の開発が必ずと言って将来的に発生します。特にAI開発を外注する場合はこの点に注意する必要があり、AI開発企業によっては自社AI開発プラットフォームを持っていたりするのですが、ここに依頼する場合は開発ノウハウはその会社のAIプラットフォームに吸収され、全てブラックボックスになってしまうので自社の資産とすることができません。AI開発力は他社との差を作る大きなポイントですので、外注する場合でもしっかり研究開発ノウハウを学ぶようにしましょう。
TC3がAIプロジェクト開発において大切にしていること
TC3では今までに挙げた内容に対し以下のような対応を取っています。
目的と手段を混同せずにビジネスインパクトを明らかにしよう
TC3のAIアーキテクトはまず最初に導入することでビジネス的に効果があるかを見極めることを大切にしています。無理にAIを導入していくのではなく、業務プロセス改善という選択肢も併せて最もビジネスインパクトや成功率が高いアプローチをご提案しています。
AIプロジェクトが堅実なものか、先端的なものかを明らかにしよう
プロジェクトが堅実なものなのか先端的なものなのかを判断することは一般的に難しいですが、TC3では世界中のトップクラスのAI人材を活用することが出来るので最新のAI情報でプロジェクトを見極め、その実現性を事前にお伝えしております。
開発プロセスでは結果に応じて柔軟に対応できるようにしよう
TC3の伴走開発サービスでは2週間を1スプリントとしてAI開発を進めています。前スプリントの結果に応じて次のスプリント内容を柔軟に決めることが出来るので、高いスピード感で対応することが出来ます。
成果物だけではなく研究開発ノウハウを大切にしよう
TC3の伴走開発サービスでは隔週、毎週単位で定例会を実施しており、その定例会においてスプリント成果物だけでなく研究開発ノウハウ等を含めてご報告をしております。
まとめ
今回はAIプロジェクトを失敗させないためのポイントを解説いたしました。AIはうまく開発することが出来れば大きく業務効率を上げられたり、事業を成長させることが出来ますがその開発は簡単ではありません。今回解説させていただいた内容が皆様のお役に立つことを願っております。
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