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はじめに
経済産業省から発表された「DXレポート」が2018年に発表され、テクノロジーを活用し、新興企業や他者との差別化を行おうと考え、実践する企業が増えてきました。一方で、2020年12月に公開された『DXレポート2』では、未だにDXを本格的に推進できていない企業も多く存在することが分かりました(参考:『DXレポート2』から読み取れる2つのポイント〜DXの取り組みは二極化・PoCの正しい運用の重要性〜)。
この背景には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈で取り組まれるデジタルサービスの開発がなかなかうまく進められていないという企業や何から始めるべきか分からない企業も多くあります。TC3では、今までご一緒させていただいたお客様との経験から、DXを推進するにあたっての3つの課題を見出しました。
今回のブログ記事では、3つの課題の1つである、「アイデアの妥当性が確認できていない」という点についてどのようにアプローチすべきか、そのガイドラインとなるリーンスタートアップの実践ガイド版である、『Running Leanー実践リーンスタートアップ 』の内容の一部をご紹介しながら、企業がどのようにしてアイデアの妥当性を検証すべきかについて検討していきたいと思います。
以下のような課題をお持ちの方におすすめの記事です。
- MVP開発をどのように進めたらよいかわからない方
- リーンキャンバスについて理解したい方
- 『Running Leanー実践リーンスタートアップ 』の事前知識を付けたい方
リーンキャンバスとは
ビジネスアイデアは、既存の顧客や現行のビジネスで近接する顧客のセグメントを明確にし、そのセグメント内の顧客の課題を理解することで明確にすることができます。しかしながら、新規事業立ち上げ当初のプロセスにおいては、顧客セグメントが複数検討されているケースも、課題が不明瞭なケースもあります。
『Running Leanー実践リーンスタートアップ』の著者であるアシュ・マウリャ氏は、ビジネスモデルキャンバスに、手を加えて「リーンキャンバス」を作成しました。このリーンキャンバスは、必ずしも初期フェーズから1つに絞り込む必要はなく、初期フェーズにおいては複数準備されるもので、それぞれのリスクを明確にし優先度を決め、検証を進めるベースになるものと説明されています。
本書では、3つのフェーズに分けてアイデアを検証し、ビジネスに繋げていくことが提唱されています。
- プランAを文書化する
- プランで最もリスクの高い部分を見つける
- プランを体系的にテストする
この3つのフェーズを通して、リーンキャンバスはこのフェーズすべてで改定、削除が施されます。このプロセス自体が、計画したものが完成するまで開発し続けるウォーターフォールなモデルではなく、仮説検証の状況に応じて学習・改善のプロセスを回すものだと言うことができます。
リーンキャンバスは以下の図のように9つの領域が設定されており、以下のように解説されています。
リーンキャンバスは、ビジネスモデルを9つの部品に分解し、リスクの高いものから体系的にテストするもの
1ページにおさめて書くことで、1領域の顧客セグメントに関する課題からどのような価値を提供するのかなどが簡潔に分かること、携帯性も優れており誰にでも説明しやすいことがリーンキャンバスの特徴です。
上記の図に記載されている数字は、本書で提唱されている記述の順番です。
順番にあらわれているように、課題と顧客を明確にすることから始めることが重要であるということが理解できると思います。つまり、顧客や顧客が持つ課題の解像度が低い状況では、ビジネスモデルのコアとなる課題の解決策(=ソリューション)や独自の価値提案(Unique Value Proposition/UVP)が定めることができないということです。サービスデザインやデザインシンキングでもアジャイル開発でも「顧客中心」であることが提唱されており、共通する部分です。
リーンキャンバスのまとめ
●リーンキャンバスとは●
- ビジネスモデルを9つの部品に分解しリスクの高いものから体系的にテストするためのツール
- 高速に書くことができ、簡潔であり、携帯性に優れいている
●リーンキャンバスを使う上での注意点●
- 1つのリーンキャンバスは一気に書く
- 複数作っても良い(むしろ顧客セグメントごとに細分化して作る)
- キャンバスに記載した時点ではソリューションはまだ製品ではない
- 顧客は課題を気にかけていることを理解する
リーンスタートアップでは、フェーズを理解することが重要
リーンキャンバスが複数できたら、次にしっかりとフェーズを理解しながら検証のプロセスを進めていきます。この検証のプロセスでは、『リーンスタートアップ』で提唱される学習ループ(構築ー計測ー学習のループ)を反復していきます。フェーズというと一直線に感じられるかもしれませんが、実際にはこの学習ループをぐるぐる回しながら、言ったり来たりするイメージです。
スタートアップや新規事業開発の最も大きなリスクは、誰も欲しくないものを作ることですが、本書で提示されるフェーズは、必要なものを作り、ビジネスとして拡大させるためのフェーズである、3つのステージが紹介されています。
第1フェーズは「課題/解決フィット」フェーズです。「課題/解決フィット」フェーズで明確にしなければならない重要な質問は、「解決に値する課題はあるか?」です。先にも説明してきたとおり、顧客と課題の解像度をあげていくステージです。
第2フェーズは「製品/市場フィット」フェーズです。「製品/市場フィット」ステージで明確にしなければならない重要な質問は、「誰かに必要とされるものを構築したか?」です。ステージ1で課題や顧客の解像度があがらない限り、顧客が実際にお金を払ってみようと思う可能性はゼロに等しいです。このリスクを第1ステージで排除していくことが重要だと理解できるかと思います。
このフェーズでは、開発された実用最小限の製品(MVP)を活用して、顧客に登録(ユーザー登録)してもらい、定着(例えば30日間無償で使ってもらう)するか、お金を支払ってもらえるか(ための約束を取り付ける)を確認していきます。
第3ステージは「拡大」ステージです。このステージで明確にしなければならない重要な質問は、「どうやって成長を加速させるのか?」です。第2フェーズまでで、顧客がお金を支払ってくれることが確認できているため、どのような成長エンジンがあるかがある程度明確になっているはずです。第3ステージではその成長エンジンを調整し、ユーザーを広く獲得していくことにフォーカスがあてられます。
まとめ
今回は、『Running Leanー実践リーンスタートアップ』で説明されている、リーンキャンバスと検証のフェーズをご紹介致しました。これらの内容から、顧客が持つ課題を含めた「顧客理解」の解像度をあげることがアイデアをビジネスに繋げるための第一歩であることをご理解頂けたのではないでしょうか。
このプロセスを飛び越えてしまうと以下のようなケースにつながり、”PoC止まり”となってしまうか、”絵に書いた餅状態”で実ビジネスにならないということが起きてしまうのです。
- とりあえずモックアップができたがユーザーの反応が悪いモノができた
- 自社が持つテクノロジーに固執してしまってユーザービリティがないモノができた
『Running Leanー実践リーンスタートアップ』では、顧客インタビューやソリューションインタビューなどの具体的なテンプレートなども掲載されています。また、MVP開発を進める上では開発・デザイン・マーケティングの3つの要素が絶対に必要であると提唱されています。これは、サイロ化したチームではなく、顧客価値を提供するために必要となる機能/要素でチームを構成することが重要であるという、アジャイルやスクラムで提唱されている方法論にも繋がり、多くの示唆を得ることができます。
新規事業やデジタルサービスの開発に携わっている方はぜひご一読いただければと思います。簡単なものですが、以下に本書の全体像をまとめた図を作成しました。こちらを参考に読み進めていただくと、スムーズに理解できるかもしれません。
最後になりますが、Running Leanやデザイン思考などの要素を組み込みながら、アジャイルなプロジェクト進行でお客様のアイデアをプロトタイプに3ヶ月で落とし込む「DXキックオフパッケージ」をTC3は提供しています。「DXキックオフパッケージ」に関する概要は以下の資料にてご確認いただけます。ご興味ある方はご一読の上、お問い合わせくださいませ。
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