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はじめに

こんにちは。TC3株式会社マーケティングの中村です。

デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で重要な要素となるDevOpsを既存の技術的な負債を乗り越えてどのように導入していくかについて、小説形式で理解できる書籍、『The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ』が2020年10月に翻訳出版されました。

 

今回は本書で紹介されている「技術的負債」と「5つの理想」、新規事業を開発するための「3つのホライゾン」の概要ををご紹介いたします。簡単な補足用の図もございますので、図だけでも見ていただければ幸いです。

 

 

◆本書について

本書は、著者ジーン・キムによる3部作のうちの最終作で、前著に、『The DevOps 逆転だ!』(The Phenix Project)、『The DevOps ハンドブック 理論・原則・実践のすべて』がある。

今回のストーリーは、The Phenix Projectの続編、The Unicorn Projectとして、大企業が技術的負債を乗り越え、ITが事業の成長に結びつけるためのプロセスを構築していくサクセスストーリーです。冒頭4章あたりまではIT部門にありがちな課題が様々ありあまり楽しいストーリーに感じられないのですが、後半に進むに連れて様々な課題を痛快に解決していき、示唆に富むとともに楽しく読める書籍です。

 

◆技術的負債とは

図解The Unicorn Project - 技術的負債とは?

技術的負債(Technical Debt)と検索をすると様々な記事が出てきますし、事あるたびに取り上げられる言葉ですが、その原典としては、WikiWikiの発明者で著名なプログラマとして知られるウォード・カニンガム氏が1992年に報告したものとされています(参考:Wikipedia)。

本書では、技術的負債について、全社ミーティング(タウンホールミーティング)で経営層から以下のように説明されています。

IT部門以外のみなさんのために説明しておくと、”技術的負債”とは、コードのなかの難点、苦痛を感じる点で、我が社のソフトウェアエンジニアたちはそれらのために機敏に動くことができなくなります何年も使っているうちに膨れ上がって、もう書き換えられなくなったスプレッドシートのようなもので、書き換えれば式が壊れるなどの何かのエラーが起きてしまいます。ーp288

 

また、本書冒頭で様々な技術的な問題点を可視化する過程で、以下のような説明があります。IT部門に所属する方はよくあることだと感じられるものではないでしょうか。

カートが寂しげな笑いを浮かべて言った。「嘘じゃないんだ。データウェアハウスの変更のためには、2つ高3つ高の別々のアウトソーサーに関わってもらわなくてね。各社の営業担当を集めてミーティングしなきゃいけない。営業担当はそれぞれ実現可能性を検討しますとか言って料金を請求してくる。エンジニアたち全体の間で変更内容を調整するためにさらに数週間かかり、変更内容で一致してもそれからチケットが何週間も行き来することになる。変更を実現するってことは、とてつもなく壮大な事業になっちゃったんだ」 ーp132

 

コードがスパゲッティ状態になってしまって変更・修正ができない状態になってしまっている、というような表現もありますが、このように、一度作られたシステムがカスタマイズを繰り返した末に、ビジネス側の要件を受け入れ難いシステムになってしまっている原因となる要素が多数あり、これがデジタルトランスフォーメーションの推進を妨げる一つの要素になっているのではないか、と本書では気付かされます。

 

◆システム・組織を強固にする「5つの理想」

本書のタイトルにはDevOpsという用語が含まれていますが、本文中にはおそらくDevOpsという言葉は使われていなかったと思います。これは、DevOpsとは技術的な要素だけではなく、ビジネス部門との連携、社員が学習しながら改善を行っていく活動の全体を表していてるからではないかと考えられます

 

本書では、技術的負債を乗り越え、変化に強いIT組織になるために「5つの理想」が紹介されています。

第1の理想 ー 局所性と単純性
第2の理想 ー 集中、フロー、楽しさ
第3の理想 ― 日常業務の改善
第4の理想 ― 心理的安全性
第5の理想 ― 顧客第一
ーp143

これらの要素は一見簡単なもののようで、それぞれが関連しあい、それぞれの解決をステップ・バイ・ステップで進めていくことが重要であることが本書のストーリーで理解することができます。

 

以下の図は本書を読んだうえでそれぞれの理想の相関を整理したものですが、2つのフィードバックループが存在することが分かり、これにより強固なシステムと組織が成り立つのだと思いました。

図解The Unicorn Project - 5つの理想

本書では、これらの理想を実装していくことで、技術的負債をひとつずつ解消しながら、ビジネスに貢献するITというものの理想像を作り上げていきます。

 

◆ビジネス的な示唆:3つのホライゾン

本書を読むと経営層がITにしっかりと関与しながら、ビジネスの成長に結びつけていくというシーンがでてきます。まさに今デジタルトランスフォーメーションを実現しようとしている企業が多い中で示唆に富むポイントが多いストーリーです。ビジネスとITがチーム一丸となっていることを表す表現として以下のような表現があります。

私は財務経理、マーケティング、販売促進、リテール営業、そしてもちろん優秀なIT要員から構成された全社選りすぐりの部門横断チームを編成し、フェニックスの様々な目標のなかでも特に重要な一部を実現する方法を検討できることになりました。
ーp289

 

これは、顧客へのバリューを届けるプロセスを最適化し、正しいものを正しく顧客に届けるということが現れていると思います。顧客へのバリューを届けるプロセスを整理する手法として、バリューストリームマップなどがありますが、その手法を実践したようなシーンもありました。

 

「5つの理想」と合わせて本書の中で重要だと感じたのは、ジェフリー・ムーアが『ゾーンマネジメント 破壊的変化の中で生き残る策と手順』で提唱する「4つのゾーン」と「3つのホライゾン」にも指摘があったことです。これはどちらかというとビジネス/経営的な概念で、このような要素をITと融合させながら進める必要があるという示唆ではないかと感じました。

 

本書では3つのホライゾンについて以下のように説明しています。あわせて、簡単に3つのホライゾンについて本書をベースに整理した図もご紹介いたします。

 

ホライゾン1は、成功を収めているドル箱ビジネス…
ホライゾン2は、会社の力を新しい顧客、隣接する市場、異なるビジネスモデルに広げていく…
ホライゾン2の事業はホライゾン3から生まれるってことになる。ホライゾン3で重視されるのは、学びの速さと追求できるアイデアのプールを大きくすることだ。
ーp338

図解The Unicorn Project - ジェフリー・ムーア3つのホライゾン

 

◆おわりに

今回はエンタープライズ企業にありがちな既存システムの技術的負債を乗り越え、イノベーションを生む組織を形成していくプロセスをストーリー形式で理解することができる『The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ』(The Unicorn Project)でポイントだと感じた部分を図による解説も含めてご紹介致しました。

 

デジタルトランスフォーメーションを進める上で、既存のアプリケーション、業務システムが足かせになることはよくあることですが、本書から学べる「5つの理想」を意識し、技術的な知見を活かしていくことが重要だと感じました。2025年の崖を飛び越えたいという方に、ぜひ本書を読んでみていただければと思います。

 

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The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ目次

第1部 どん底へ

 第1章 島流し 9月3日(水)

 第2章 スティーブの涙 9月5日(金)

 第3章 システム開発のあるべき姿 9月8日(月)

 第4章 ブリッジクルーのシュールな登場 9月11日(木)

 第5章 反乱軍 続9月11日(木)

 第6章 大惨事 9月12日(金)

 第7章 見えてきた課題 9月18日(木)

 

第2部 快進撃

 第8章 反転プロジェクト 9月23日(火)

 第9章 QAとのパーティー 9月29日(月)

 第10章 官僚主義の牢獄 続9月29日(月)

 第11章 自分の力で 10月1日(水)

 第12章 分離独立 10月13日(月)

 第13章 新たな世界へ 11月6日(木)

第3部 結実のとき

 第14章 ユニコーン・プロジェクト 11月10日(月)

 第15章 テストランからブラックフライデー当日へ 11月25日(火)

 第16章 2号館の会議 12月5日(金)

 第17章 コスト削減計画 12月12日(金)

 第18章 発表会と政変 12月18日(木)

 第19章 新しい時代へ 1月13日(火)

 エピローグ 1年後(プロジェクトのその後/反乱軍のその後)

 

TC3について

TC3はTC3はクラウド基盤、データサイエンス、ブロックチェーンなどの先端技術、そしてウェブ・モバイルアプリケーションの4つのテクノロジー領域に対して、グローバル開発者コミュニティであるTopcoderをはじめとしたGigを活用した独自の共創プロジェクトマネジメント手法により、お客様のクイックウィンを実現するための技術コンサルティングサービスを提供しています(Topcoderサービスについて)。

 

キャッチ画像はUnsplashより活用させていただきました